春に着る着物

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『死のうと思ってゐた。

ことしの正月、よそから着物を一反もらつた。

お年玉としてである。

着物の布地は麻であつた。

鼠色の細かい縞目が織りこめられてゐた。

これは夏に着る着物であらう。

夏まで生きていようと思つた。』

 

 

太宰治「晩年」の一節です。

「些細な出来事で人の心は動きうる」 ということを端的に表していて、

学生時代、初めてこの文章に出会ったときは非常に感銘を受けたことを覚えています。

 

夏期講習中、このような、心が動く出来事は私にもありました。

 

生徒が旅行のお土産をくれた時、

保護者の方から、「もっと前から通っていれば良かった」という言葉をいただいた時、

以前と比べ、夏休み後半、明らかに実力がついてきた生徒を見た時、

 

確かに、私の心は動きました。

 

 

そして先日、また嬉しい出来事がありました。

 

高校3年生の生徒から、入塾したいと直接電話があったのです。

その生徒は開校当初の3年前、中学三年の時に通ってくれていた生徒でした。

高校1年生の夏に、部活動との両立が難しく、塾をやめてしまったのですが、

部活動を引退し、受験勉強に専念するにあたり、戻ってきてくれるというのです。

 

2年ぶりに対面すると、

やはりすっかり大人っぽくなっていて、2年の月日の重みを感じましたが、

話してみると以前と変わらず、

まるでタイムスリップしたような不思議な感覚をおぼえました。

 

そして、高校3年生という大事な時期に、他にも候補はある中、

塾の第一期生が最終的に私を頼ってくれたということは、錯覚かもしれませんが、

私自身を、校舎を、そして今までの歳月を肯定してくれたように感じられました。

 

夏期講習の疲れをすべて吹き飛ばすような、

心に真夏の太陽が差し込むような、嬉しい出来事でした。

 

もらうだけではいけない、少しでもお返しができるように、

生徒全員が志望校に合格するまで、

もう少しがんばってみようと思います。

 

 

ステップ個別指導学院 総社・吉岡校   小西