たまには古典の話でも……
学生時代に学んだ古典の中で1番記憶に残っているものは、紀貫之、土佐日記冒頭の『馬のはなむけ・門出』に出てきた馬のはなむけという言葉です。
タイトルの「餞」は一字で〈ウマノハナムケ〉と読みます。
昔、遠方の旅に出る人の道中の無事を祈って、乗る馬の鼻をその行く先へ向けてやったということから、旅立つ人の安全を祈り、前途を祝して、酒食をもてなしたり、品物を贈ったりすること
という意味があります。現在も餞別を送るなどの言葉に残っています。
なぜこの「餞」という言葉が記憶に残っているのかというと、元の意味の行いのささやかさにあると思います。
現在も使われている(土佐日記内でもですが)送別会や品物を送るといった方ではなく、元の馬の鼻を向けるだけという行いのささやかさに惹かれるものがあったからです。
どこか遠くへ旅立つ誰か(ひょっとするともう二度と会わない人かもしれませんね)にしてあげられる本当のことは、このくらいささやかだけど心を込めたお祈りのようなものなのかな、と学生時代に妙に得心がいったのを覚えています。
そのどこの誰かも知らない遠い昔の人々の旅立ちと別れの場面に思いを馳せると、なんだかこみ上げるものが今でもあります。
旅立つ人たちを見送る立場の僕たちは、ただただ、皆さんのためにささやかだけれど、想いのこもった餞(うまのはなむけ)をしてあげられたらな、と切に願うのみです。
貝沢校 青木